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── Media Watchdog Group

北朝鮮の核・ミサイル問題:対話による解決を求めるロシアに対するマスメディアのネガティブ・キャンペーン

 核実験を強行した北朝鮮に対して日本や合衆国などが石油の禁輸や、北朝鮮に関係する船舶の臨検(船舶を公海上で強制的に停止させて検査すること)を含む新たな制裁を目指す一方で、ロシアや中国は制裁よりも対話を重視ている。とりわけロシアは、制裁は軍事的緊張を高めるだけで無益で効果がないとして新たな制裁には強く反対しているが、そのロシアの動機について、マスメディアは疑いをかけている。

 例えば、報道ステーション(17/9/6)はロシアの「プーチン大統領の思惑が透けて見える場所」があると言ってウラジミール・プーチン大統領がロシアの「極東地域」に建設した「巨大カジノリゾート」を紹介し、「プーチン政権の優先課題は極東地域の経済発展です。その課題を達成するには隣接する中国、北朝鮮、日本の協力が不可欠です」と述べた後、「北朝鮮から派遣された労働者がカムチャツカ半島南部に建設したプール施設」を紹介して、「安い賃金で働く北朝鮮労働者はロシアにとって貴重な存在」、「北朝鮮を追い詰め過ぎればロシアの極東開発にも悪影響が出る可能性があるのです」などと、「ロシアと北朝鮮の結びつき」が「深まって」いることを強調している。テレビ朝日モスクワ支局長の長谷川由宇によれば、

「今現在、北朝鮮と最も太いパイプを築いているのはロシアなんです。ロシアとしてはこの立場をてこに、周辺国から何らかの譲歩を引き出したり、経済的な支援を得たりして極東地域を思い通りに発展させたいという思惑があります」

 他のメディアも、

プーチン大統領は、北朝鮮に軍事的な圧力をかけることにも強く反対しています。その本当の理由は、東アジアでアメリカの影響力が強まると、ロシアの安全保障にも影響が出ると懸念しているからです」NHKモスクワ支局長・松尾寛、NHKニュース7、17/9/6)

「米国の批判の矢面に立つ中国の陰で、ロシアは北朝鮮問題をシリアに代わる米国揺さぶりのカードと位置づけているフシがある。……中国と歩調を合わせて米国に抵抗し、米国が北朝鮮問題の混乱に追われれば、欧州や中東でロシア外交の自由度が増すとの読みもある。……『ロシアの最大の懸念は韓国や日本での米軍のプレゼンスの拡大だ』とロシア政府に近い筋はいう。プーチン氏は……日本には北方領土交渉も絡めて『米国追随』からの脱却を促しているとみられている。米国の影響力を低下させ、同盟国を分断させる機会をうかがう」日経17/9/8)

 朝日新聞(社説17/9/8)は、

「かねてウクライナ紛争などで対立してきた米国を批判する好機として、北朝鮮問題を利用しようとしているならば、無分別というほかない」

とロシアの動機を詮索している。

 NHKニュース7(17/9/6)によれば、ロシアは制裁強化を目指す日本や合衆国に協力して「安保理常任理事国として責任ある対応」を取らなければならないらしい。
 しかし、北朝鮮の石油を禁輸することは、北朝鮮の暴発を招くのではないかとの懸念がある。歴史を振り返れば、太平洋戦争も最終的には石油の禁輸が日本政府に開戦を決断させた。臨検については、「軍艦が北朝鮮船の臨検を試みた際、衝突が起きる可能性を指摘する声もある」(朝日17/9/8)。仮に北朝鮮が暴発して戦争に発展すれば、「この60~70年間で見たこともない犠牲者が出るだろう」と米軍のジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長は予測している(NHKニュースウォッチ9、17/6/13)。トランプ政権の首席戦略官を解任されたスティーブン・バノン氏は「『(軍事作戦開始後)最初の30分間で1000万人のソウル市民が通常兵器による攻撃で犠牲にならない』と証明されない限り、軍事的手段は排除すべきとの考えを示し」、北朝鮮問題の「軍事的な解決」を否定していた(ロイター17/8/17)。対北朝鮮軍事演習のシナリオ策定に携わった米軍のチェタン・ペダッダ元陸軍大尉は、北朝鮮政府は「国際社会の制裁で危機に陥り、体制の維持が困難になったと判断した場合、『韓国への奇襲攻撃』で活路を見いだそうとする」と想定して、北朝鮮が通常兵器のみを用いた場合でも「死者は数十万人に達することが確実視される……日本や米西海岸に核弾頭搭載の弾道ミサイルを撃ち込んだ場合、被害は桁違いに増大する」との警告をアメリカ外交政策研究季刊誌・フォーリン・ポリシーに寄稿している(産経17/9/10)。
 さらに対話や交渉による外交的手段について言うと、日本政府は「今は対話の時ではない」とか「北朝鮮に対話の意思がないことが明確になった」などと言うけれど、対話を拒否してきたのは、むしろ合衆国の方だ。
 例えば、昨年4月、

北朝鮮の李洙ヨン(リスヨン)外相は……米国が朝鮮半島周辺で行っている米韓合同軍事演習を中止すれば、北朝鮮も新たな核実験を中止する用意があると提案。オバマ氏はこれに対し、『北朝鮮が(核)実験を停止すると決断するまでは、こうした約束は真剣に受け止めない』と一蹴した」朝日16/4/25夕刊)

 また北朝鮮は昨年7月にも、現在は休戦協定のままの朝鮮戦争終結して合衆国と平和協定を締結することや、朝鮮半島の非核化に向けた協議の提案[i]を行っているが、合衆国政府は人権侵害を理由にキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長らを対象とした北朝鮮への経済制裁でこれに応えた。
 今年6月には、

北朝鮮のゲ・チュンヨン駐インド大使は米韓が合同軍事演習を『一時的あるいは永続的に停止すれば我々も(核とミサイルの実験を)一時的に中断する』と述べた」日経17/6/23)

 8月には、グアム島周辺へミサイルを発射すると威嚇していたキム・ジョンウンが「合衆国の行動をもう少し見守る」と述べて、予定されていた米韓合同軍事演習を見越して合衆国政府を牽制する中、合衆国政府は、北朝鮮の核ミサイル開発凍結と引き換えに合衆国と韓国が大規模な合同軍事演習を停止して交渉を再開するよう求めるロシアと中国の呼びかけにもかかわらず、北朝鮮が再三中止を求めていた合同軍事演習を強行した。軍事演習はキム・ジョンウン北朝鮮政府首脳の「斬首作戦」を含む「作戦計画5015」を土台に行われている。
 こうした経緯を見ると、合衆国政府が本当に北朝鮮の核・ミサイル開発を止めようという意思があるのか疑いたくなる。
 その一方で、北朝鮮の意図は明白だ。これまで北朝鮮は合衆国と平和条約を締結することを一貫して求めている。また、合衆国が韓国との合同軍事演習を中止すれば核実験やミサイル実験を中断すると述べ、さらに平和条約を締結して合衆国による核の脅威がなくなれば非核化に応じる姿勢まで示している。
 つまり、合衆国政府が北朝鮮に対する敵視政策を見直し、少なくとも朝鮮半島周辺における韓国との合同軍事演習を中止して交渉を再開すれば、北朝鮮の核・ミサイル問題の解決、さらには朝鮮半島の非核化も実現可能かもしれない。
 果たして、北朝鮮の暴発を招きかねない石油禁輸などの制裁を加えることが、「安保理常任理事国として責任ある対応」と言えるだろうか。

 確かにロシアや中国は、朝鮮半島で合衆国の影響力が高まることを望んでいない。報道ステーション日本経済新聞などが指摘する通り、ロシアには他にも何か動機があるかもしれない。
 しかし、ロシアや中国の動機がどうであれ、朝鮮半島と東アジアの平和を考える時、「北朝鮮の核ミサイル開発凍結と引き換えに合衆国と韓国が大規模な合同軍事演習を停止して交渉を再開する」というロシアや中国の提案の方が、日本や合衆国のそれよりはるかに理にかなっているのではないだろうか。

[i] 北朝鮮政府は2016年7月6日の声明で、朝鮮戦争『休戦協定』を終結し『平和協定』を締結することを再度提案するとともに、『非核化協議』に前向きに応じるための次の5つの条件を提示した:①朝鮮半島のすべての核兵器の存在を公表すること、②韓国にあるすべての核兵器及び核基地を検証可能な形で撤去すること、③朝鮮半島及びその近傍に核兵器を配備しないこと、④いかなる場合もDPRK北朝鮮]に核兵器による威嚇を行わないこと、⑤核兵器を使用する権限のある部隊すべての韓国からの撤退を宣言すること」核兵器・核実験モニター』ピースデポ16/8/1)。この声明は、決して非合理的で実現不可能な提案ではない。なぜなら「『声明』の5項目のうち、⑤を除く4項目は、1992年の『朝鮮半島非核化のための南北共同宣言』、『第4回6か国協議』[2005年]における『9.19共同声明』などですでに合意されている」(同)。