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白紙領収書問題:閣僚のときと地方議会議長のとき ニュースとしての扱われ方を比較する

 ニュースウォッチ9NHK、16/11/28)は、宮城県議会の前議長が白紙の領収書を受け取り、実際より多い金額を記入して政務活動費を受け取っていた問題を報道した。今回の報道と、今年10月の閣僚の白紙領収書問題についてのニュースウォッチ9の伝え方を比較してみる。

 宮城県議会前議長の報道の概要:
 ニュースウォッチ9は「県議会のすべての議員の報告書や領収書を入手、詳しく分析し」、前議長の領収書の中に「いずれも同じ業者が発効、よく似た筆跡で4500円と記され」た領収書が「今年3月までの3年間に80枚」あったことを発見。
 NHKが利用実態を調べるために運転代行業者を取材すると、行先や距離、料金を記録した業務日程と領収書が食い違っていたことが判明。運転代行で実際にかかる料金は3000円だが、前議長が1500円多く領収書に記載し、その分、政務活動費を多く受け取っていたことを突き止めた。
 ニュースウォッチ9は、この問題に対する県民の声を紹介し、その後「政治とカネについて長年取材してきた」NHK社会部・ネットワーク熊田安伸デスクがコメントする。

「白紙の領収書を受け取って、そこに議員側が金額などを書いてしまうということになりますと…事実と違う金額が書かれるというようなことが起きてしまう…手書きの領収書というものが許されてしまっては、不正が隠れてしまう…議会や議員が自らを律するような使い道や情報公開についての厳しいルールを作ってこそ本当に信用が得られるんじゃないでしょうか」

 スタジオでも、キャスターが「そもそも白紙の領収書に自分で書き込むっていうのは一般常識とかけ離れていますよね」(鈴木奈穂子)、「一般じゃちょっと許されないですよね」(河野憲治)などとコメントし、河野憲治が「地方議会が信頼を取り戻すには情報公開もそうですし、厳しいルール作り、これが欠かせないということではないかと思います」と結んでいる。

 閣僚の場合はどうだろう。問題についておさらいしておくと、今年10月、菅義偉官房長官稲田朋美防衛大臣、それに高市早苗総務大臣が、他の国会議員の政治資金パーティに出席した際に白紙の領収書をもらい、自分たちで金額などを書き込んでいたことが国会で共産党議員小池晃から指摘されていた。それによると、

「菅氏の資金管理団体『横浜政経懇話会』の収支報告書に添付されたパーティ券購入の領収書に、金額欄の筆跡が同じものが…3年間で合計約270枚、約1875万円分…稲田氏については、同氏の資金管理団体『ともみ組』も3年間で約260枚、約520万円分の領収書が同じ筆跡…政治資金の所管大臣である高市氏が代表の自民党支部も3年間で約340枚、約990万円分の領収書で同様の疑いがあ」る(赤旗16/10/7)。

 ニュースウォッチ9は、この問題について3回取り上げている。そのうち2回は国会の質疑での答弁の紹介(独立したニュースとしてではなく、国会議員の国籍やリニアモーターカーに関する質問など、国会の質疑を短くまとめた中のひとつとして)、もう1回は総務大臣の会見を伝えるものだった(これも独立したニュースとしてではなく、一日の出来事を短くまとめたニュースの中のひとつとして)。問題の内容については、「閣僚が出席した政治資金パーティの領収書に、主催者側の了解を得て、あとから金額などを記入していた」問題などと伝え、具体的な金額など、それ以上の情報には触れていない。
 国会の質疑では「問題ない」「問題は生じない」と答弁する、問題の当人である菅義偉稲田朋美高市早苗や、内閣総理大臣安倍晋三の見解が繰り返される。

稲田朋美:「主催者側の了解の下で稲田側において未記載の日付、宛名、金額を正確に記載…何ら問題がない」(16/10/6)
菅義偉:「領収書として取り扱うことに問題はないと思っております」(同)
高市早苗:「発行元であるパーティの主催団体から了解されているものであれば法律上の問題は生じない…双方の事務所においてパーティの日付、名称、出金額または入金額が記録されていますから、記入を了解する関係というものが成立する」(同)
安倍晋三:「今回のことについては法律上の問題が生じているとは考えませんが、自民党においては政治資金パーティにおける受付事務の運用を改善することにいたしました」(16/10/11)

 高市早苗の会見については、ニュースウォッチ9(16/10/7)は「政治資金規正法を所轄する高市総務大臣」の見解として(問題が指摘されている当人としてではない)伝えているが、閣僚の白紙領収書の問題が、政治家一般の「領収書の在り方」についてのお話しにすり替わっている。

高市早苗:「国民の皆様の疑念と言うものを招かないように、それぞれの党内で統一して、どういう風に改善をしていくかという方法を考えていただけると大変ありがたいな」

 同じ白紙領収書を巡る問題でも随分違う。閣僚のときは、独立したニュースとして扱われず、いくつかのニュースの寄せ集めの中のひとつとして伝えられていた。国会のVTRや会見をそのまま無批判に伝えるだけで、地方議会議長のときのような取材も行っていない。また、閣僚のときは市民の声も聴いていないし、長年取材してきたデスクやスタジオのコメントもない。

 宮城県議会前議長の場合は実際に政務活動費を不正に受け取っていたという大きな違いはあるが、白紙の領収書に自分で記入するということは、NHKデスク熊田安伸が指摘する通り「事実と違う金額が書かれるというようなことが起きてしまう」、あるいは「不正が隠れてしまう」。
 税理士の浦野広明立正大学客員教授は「領収書は、お金をもらった側が、いつ、いくらもらったかを、払った側に証明するものであって、払った側が書くものは領収書と呼べない」と指摘している(朝日16/10/7)。また、「総務省発行の政治資金収支報告の手引きにも(領収書の金額は)後から追記してはいけないと書いてある」(赤旗16/10/19)。
 地方議会の議長よりも閣僚の方が政治家としての責任はより重いというのが一般的な見解だろう。ニュースウォッチ9は、閣僚の問題についても地方議会議長と同等かそれ以上の扱いをすべきではないだろうか。