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政治献金 ニュース7が注目するのは、TPPで大打撃の養豚業界による献金

 総務省が11月27日に公表した政治資金収支報告書で明らかになった2014年の個人や企業・団体からの政治献金ニュース7NHK、15/11/27)は、「与党に税制優遇を求める企業やTPP対策を求める農業関連団体からのものなどが目立って」いるとして、「消費税が8%に増税された中、住宅を購入する際の税制の優遇などを促す目的があった」7社の住宅メーカーによる献金と、「TPPへの対策などに要望を聞き入れてもらおうと政治献金をする」養豚業界に言及している。

 特に養豚業界については、日本養豚政治連盟(豚政連)が昨年約1200万円を献金し、「TPP関連政策大綱」で、「豚肉の関税は将来的に大幅に引き下げられることに」なったものの「政府は生産者が赤字経営になった場合に国費などで補てんする割合を引き上げるとしました」と紹介。「我々が要請、お願いしていたことがかなり認められた」という豚政連会長へのインタビューも紹介している。

 なるほど、消費税増税やTPPの大筋合意を受けて、住宅メーカーや養豚業界の献金については注目すべきかもしれない。しかし、原発再稼働、軍需品の開発・輸出、法人税実効税率の引き下げも2014年から今年にかけて安倍政権が進めてきた大きな政策だ。

 原発については、電力会社や原子力関連企業などでつくる「日本原子力産業協会」の会員企業が2014年に、少なくとも7億1000万円を自民党政治資金団体国民政治協会」に献金している(赤旗、15/11/28)。政府は、避難計画や原子力規制委の安全基準が疑問視されているにもかかわらず、国民の反対世論を押し切って今年8月に川内原発を再稼働させた。また、技術的・経済的に問題視されている核燃料サイクル事業についても推進する方針だ。

 軍需関連については、武器などを開発・生産する軍需産業の主要企業が2014年、国民政治協会に少なくとも1億7000万円を献金している(赤旗、15/11/29)。政府は昨年4月、武器輸出三原則を撤廃して武器輸出を解禁し、今年10月には装備品の輸出や研究開発などを管理する防衛装備庁を発足させた。

 法人実効税率は、経団連がその引き下げを求めてきたが、2014年の経団連加盟企業・団体からの自民党政治資金団体への献金は18億7400万円に上る(日経、15/11/28)。政府は昨年、法人実効税率を15年度は32.11%、16年度は31.33%以下に引き下げることを決定していたが、来年度から20%台にするという方針が固まったことを11月27日付の日経が伝えている。経団連は、法人税実効税率の引き下げだけではなく、上に挙げたすべての政策(原発再稼働、軍需品の開発・輸出、消費税増税、TPP締結)も求めてきた。

 ニュース7は、経団連会長が昨年、政党への献金を行うよう呼びかけていたことや、経団連会員企業が国民政治協会に約14億5000万円を献金していたことなどには触れてはいるが、豚政連のときとは違って、経団連のこれらの要望について言及しないため、視聴者は、経団連などによる献金と政府の進める政策とつながりに気付くことができない。また、消費税やTPP、特にTPPについては失うものが大きい養豚業界ではなく、経団連を「要望を聞き入れてもらおうと政治献金をする団体」として紹介すべきだっただろう。

 日経(15/11/28)は、「全体の企業献金のうち自民党向けは9割にのぼる」ことや武器輸出の解禁や法人実効税率の引き下げが経団連の求めていた政策だったことなどを指摘して政治と企業の癒着を批判し、政党助成制度が企業・団体献金を禁止する見返りに構想されたことを喚起している。毎日(15/11/28)も企業・団体献金は健全な民主主義をゆがめる恐れがあると警鐘を鳴らす。

 しかし、ニュース7は、大企業と政治の癒着に対する危惧よりも、国会決議で守られるはずだった豚肉の関税をTPPによって限りなく関税撤廃の水準にまで引き下げられる養豚業界が、それに対するわずかな保護措置を勝ち取ったことを視聴者に伝えたかったようだ。