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── Media Watchdog Group

放射能汚染土を「再生利用」するという日本政府の計画自体が問題だ

 ニュースウオッチ9(20/3/26)は、東京電力福島第一原発事故で放出した放射性物質の「除染作業」で生じた放射能汚染土を日本政府が「再生利用」しようとしている問題を取り上げた。放射能汚染土は福島県内の「中間貯蔵施設」で保管された後、福島県外で最終処分されることになっているが、日本政府は放射性物質を含んだ膨大な汚染土の量を減らすために、1kg当たり8000ベクレル以下の放射能汚染土を全国の公共事業や農地造成などで「再生利用」する計画だ。ニュースウオッチ9は、その実証実験が福島県だけで行われようとしていることを問題視している。

 ニュースウオッチ9は、福島市内の住宅地などに置き去りにされた放射能汚染土の搬出がようやくピークを迎えていることを紹介し、搬出先の「中間貯蔵施設」を取材。そして3月10日の会見で「(搬入から30年以内に福島県外に持ち出すという)約束を果たすために不可欠な再生利用」だと語る小泉進次郎環境大臣の言葉を交えて、日本政府は放射線汚染土の量を減らすために「放射性物質の濃度が一定の基準を下回った土」を「公共工事」で利用しようとしていると説明した後、「再生利用」は全国で行われる予定であるにもかかわらず、「実証事業が行われているのは、現在、福島県内の2か所だけ」だと指摘して、福島県内の住民から反発の声が上がっていることを伝え、放射能汚染土の「再生利用」で “風評被害” が起こることを懸念して次のように話す二本松市の農家の声を紹介。

福島県に押し付けるんじゃなくて、やっぱり全国も同じレベルで、もちろん対応してもらわなくちゃなんない」

 その後、政府から放射能汚染土の「再生利用」の打診があった場合に受け入れるかどうかを尋ねる福島県内の市町村長へのアンケート結果を紹介し(受け入れる8%、受け入れない32%、どちらとも言えない54%)、「再生利用」が進まなければ福島県外での最終処分が実現されず、「中間貯蔵施設」が最終処分場になるのではないかという危機感から、福島県内の自治体は放射能汚染土の受け入れを求められた場合に「簡単に拒否できない」という実情を伝えた後、政府に「国民的」な「理解」を得られるよう努力することを求める福島県葛尾村の篠木弘村長の声と、記者の質問に対して「地元の皆さんのご理解無くしては、これは進みませんし……福島の復興というのは全国の課題です。福島だけの課題ではありません。これがしっかりと伝わるように……努力の追求をしていきたい」と答える小泉進次郎の声を伝えた後、キャスターの桑子真帆が、

「全国で考えるべき問題を福島だけに押し付ける。こんなことはあってはならないことですよね」

と述べてニュースを結んでいる。

 福島県で暮らす人々の反発は当然だろう。問題を福島だけに押し付けてはいけないという桑子真帆の意見には同意する。しかしその意味するところが、「全国で放射能汚染土を受け入れよう」という事であるなら、批判を加えなければならない。
 番組では「放射性物質の濃度が一定の基準を下回った土」を「公共工事」で使うと説明しているが、その「一定基準」とは日本政府が原発事故後に定めた8000ベクレル/kgで、これは低レベル放射性廃棄物として厳重に管理すべき基準として事故前に定められていた100ベクレル/kg以上という基準を大幅に上回るものだ。現在でも原子力発電所の解体などで発生するコンクリートや金属の場合、「再生利用」が許されるのは、放射性セシウムについては100ベクレル/kg以下と定められている。しかもこの100ベクレル/kgという基準も、科学的に安全を保証するものではない。
 また日本政府が福島県で計画している実証実験は省令の改定によって行われる予定だったが、省令改定に反対する環境NGOFoE Japanの声明(20/1/31)によると、改定案は、「用途制限、放射能濃度限度、被覆、管理期限、情報公開など具体的なことが何一つ盛り込まれて」おらず、「事業実施者、管理者の責任がまったく不明」だった。しかも、放射性汚染土を「道路の盛り土として使った場合」、放射性セシウムが「100Bq/kgまで減衰するのに170年」かかる一方で、「盛り土の耐用年数は70年」と想定されているが、環境省は「その後はどうするのか」という問いに答えていない。
 FoE Japanが声明で述べているように、本来、「放射性物質は集中管理するべき」であり、放射能汚染土を公共事業などに利用するなどもってのほかだ。

 省令の改定案は4月1日に施行される予定だったが、朝日新聞(20/3/30)などの報道によると、パブリックコメントで反対の声が多かったことから、環境省は省令の改定を先送りし、検討を続けることにした。福島県外で最終処分という約束はあるが、今後日本政府は「再生利用」とは別の方法を考えるべきだろう。
 それにしても、中間貯蔵施設を取材したレポーターの今井翔馬は、施設で放射能汚染土を「土と燃やせる草木など」に分別している──つまり分別した草木は焼却処分されると推測されるが、そうすると放射能を拡散することになる──ことや、日本政府が放射能汚染土を「農地や公園などの公共工事」として「再生利用」しようとしていることを何の疑問を呈すことなく伝えているのだが、そういうことを「おかしい」と疑う感覚がNHKにはないのか。
 ニュースウオッチ9は、放射能汚染土を「再生利用」しようとする日本政府の計画自体を問題視しなければならない。市民の反対の声が政府に省令改定案の施行を思いとどまらせたように、政府の誤った政策を正す上で、世論の力は大きい。そして公共放送とは本来、そうした世論形成に役立つものでなければならない。