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岸田文雄提唱の「アジア・ゼロエミッション共同体」は脱炭素を目指す世界に逆行している

 岸田文雄総理大臣が提唱したアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)の初めての閣僚会合が、今月4日に東京都で開催された。アジア地域の経済発展と脱炭素の両立などを目指すというAZECについては、環境問題に取り組むNGOなどから批判されているが、マスメディアはその問題点を指摘することを怠った。

 AZECは、水素やアンモニア二酸化炭素の回収・貯留(CCS)技術などによって「カーボンニュートラル」や「ネットゼロ・エミッション」を目指そうとするもので、閣僚会合後に発表された共同声明でも、「カーボンニュートラル/ネット・ゼロ・エミッションに向け」て協力することの重要性を確認した上で、「省エネルギー再生可能エネルギー、水素、アンモニア、エネルギー貯蔵、バイオエネルギー、炭素回収・利用・貯蔵(CCUS)などの脱炭素戦略・計画・ビジネス・技術の開発・実証・展開」などに協力して取り組むことを確認した。
 アンモニアと水素は燃やしても二酸化炭素を発生しないことから、日本政府は石炭火力発電やガス火力発電で石炭や天然ガスと混焼することで、二酸化炭素の排出量を削減することができると主張している。
 しかし国際環境NGOFoEが指摘するように、アンモニアと水素のほとんどは化石燃料から生成されており、その製造過程で多くの温室効果ガスを排出する。また日本政府はアンモニアを20%混焼する石炭火力発電の実現を目指しているが、その場合、「通常のガス火力発電所に比べて温室効果ガス排出量が2倍近く」になる。アンモニア混焼率を50%にしてようやく「ガス火力発電と同程度の排出量」になり、二酸化炭素の排出量削減には全くつながらない。水素混焼についても、二酸化炭素の外部への排出を防ぐためにCCS技術を用いて化石燃料から製造された「ブルー水素」を混焼した場合でも、「従来のガス火力発電よりも多くの温室効果ガスを排出」するとの指摘がある。再生可能エネルギーを用いて水を電気分解して製造する「グリーン水素」は、将来的な価格低下が予測されているが、現在は発電費用が掛かり過ぎるため、わざわざ水素を混ぜて天然ガス火力を用いて発電するよりも、再生可能エネルギーを直接利用して発電した方が効率が良いだろう。
 こうしたことから、脱炭素にはならず、却って温室効果ガスの排出を増やすことになる日本政府の脱炭素政策は、「化石燃料の延命を図るもの」だと見做されている。また「カーボンニュートラル」や「ネットゼロ・エミッション」を目指すというAZECの目標自体も間違っている。「脱炭素」を実現するなら、温室効果ガスの「排出量」を「吸収量」や「除去量」で相殺する「カーボンニュートラル」や「ネットゼロ・エミッション」ではなく、化石燃料の使用をやめて温室効果ガスの排出そのものを「ゼロ」にすることを目標にすべきだろう。

 しかし多くのマスメディアが、こうした問題点を指摘するのを怠っている。例えば、会合について伝えたNHKニュース7(23/3/4)や朝日新聞23/3/5)、毎日新聞23/3/5)は、水素やアンモニアを用いた発電を脱炭素技術として疑わず、温室効果ガス削減の取り組みとして肯定的に伝えている。日本経済新聞23/3/5)は、「アンモニア混焼を巡っては、欧米を中心に石炭火力の延命策との厳しい見方もある」と伝えているが、それ以上の説明はない。
 特異なのはニュース7(同)だ。ニュースの冒頭で、

「アジアの脱炭素を巡っては中国も積極的な動きを見せていて、日本と中国の主導権争いが激しくなりそうです」

などと述べて、気候変動の問題でも中国との勢力争いという構図でニュースを伝え、中国の太陽光発電と日本の水素・アンモニア技術についてそれぞれ紹介して、

「脱炭素の分野でも、アジアで中国の存在感が強まる中、日本の戦略が問われています」

とニュースを結んでいる。

 気候変動の問題は地球規模の問題であり、人類共通の課題である。世界中が協力して解決すべきなのであって、中国との勢力争いという視点でニュースを伝えるニュース7には同調したくないが、太陽光発電の中国と水素・アンモニアを用いた偽脱炭素技術の日本の取り組みなら、太陽光発電の中国の「存在感」が強まる方が人類にとってはありがたい。