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── Media Watchdog Group

合衆国政府によるアフガニスタンの資産強奪に無関心なマスメディア

 合衆国のジョー・バイデン大統領は、タリバンの政権奪取を理由に合衆国国内で凍結しているアフガニスタン中央銀行の資産70億ドルのうちの半分を、新設の基金を介してアフガニスタン人道支援に利用するための大統領令に署名した。残りの半分は、2001年の合衆国同時多発テロの被害者遺族への「賠償」の支払いに使うそうだ。しかしアフガニスタン中央銀行の資産は、バイデンの所有物ではなくて、アフガニスタンのものだ。バイデンのやっていることは略奪行為に他ならない。ところが、日本のマスメディアは全く問題だとは考えていないようで、それどころか、今回のバイデンの措置について、評価すべき人道的措置だと勘違いしているようだ。

 朝日新聞22/2/13)は、「アフガン人道支援活用へ 凍結資産4000億円 米大統領令」という見出しで、

「宙に浮いていた資産をイスラム主義組織タリバンに渡さず、人道危機への対応に生かす狙いがある」

と説明。毎日新聞22/2/22)も、「米、凍結資産でアフガン支援 35億ドル活用、大統領令に署名」という見出しで、

イスラム主義組織タリバン復権後、米政府は金がタリバンに流れるのを防ぐために資産を凍結していたが、バイデン大統領が11日に人道支援に活用するための大統領令に署名した。アフガンでは資産凍結の影響もあって経済は破綻状態となり、人道危機が深刻化している。
 米政府はタリバン暫定政権を介さず、アフガン国民を直接支援する方針だ」

と説明している。
 マスメディアは、一国の大統領が他国の資産を奪い取って、勝手にその使い道を決めるということに問題があるとは思わないのだろうか。それが “権威主義と闘う民主主義国家” のすることなのだろうか。それが中国やロシアから “挑戦” を受けているという “国際秩序” なのだろうか。仮に凍結した全ての資産をアフガニスタン人道支援のために使うとしても、決して許される行為ではない。
 さらにバイデン政権は、アフガニスタンの資産の半分を、同時多発テロの被害者家族への「賠償」に使うのだと言う。そんな馬鹿な話があるか。
 アフガニスタンに住む人々は、テロの加害者ではなくて被害者だ。同時多発テロを行った犯人の中にアフガニスタン人は一人もいない。それにもかかわらず、合衆国はテロ容疑者をかくまっていると主張して、アフガニスタンを侵略した。証拠の提示を求めるタリバン政権の要求を無視して。そしてその後20年間、同国を占領した。合衆国の20年間に及ぶ侵略の結果、アフガニスタンでは多くの市民が犠牲になった。アフガニスタン人は賠償されるべき被害者なのであって、その責任を負うべきは、侵略者のアメリカ合衆国ではないか。
 毎日新聞)は「アフガン国内」でバイデン政権の方針に対する反発が広がっていると伝えているが、抗議の声はアフガニスタン人だけではない。合衆国のイルハン・オマール下院議員はツイッターで、

「ハイジャック犯の中にアフガニスタン人は一人もいなかった。その一方で、9.11テロリストと直接関係のあるサウジアラビアとエジプトの両政府には、何十億ドルもの資金を提供している。
 たとえそうでなくても、これらの犯罪のために何百万人もの飢えた人々を罰するというのは、非道である」

と述べて、バイデン政権を非難。また、同時多発テロの被害者家族であるフィリス・ロドリゲスさん(Democracy Now22//2/15)も「許し難く、悲しいこと」であり、合衆国の侵略によって苦しんでいる人たちに対して「さらに侮辱を加える」行為だと批判している。

 アフガニスタンでは今、40年にわたる戦争と20年に及ぶ合衆国の占領、それに干ばつの影響もあって、多くの人が極度に困窮している。国連食糧農業機関(FAO)などは、昨年10月の報告書アフガニスタンの人口の半数が深刻な飢餓状態に直面することになると発表し、ユニセフは、早急な措置が取られなければ100万人以上の子どもが重度急性栄養失調によって死亡することになると警告している。それに追い打ちを変えているのが、バイデン政権による資産凍結など、欧米中心の “国際社会” による経済制裁だ。
 経済制裁の影響でアフガニスタンの経済システムは崩壊し、現地の医療スタッフや支援団体は、思うように医療活動や人道支援が行えない。スタッフの給料も支払えない状態が続いている。アフガニスタンでは今すぐ現金が必要なのだ。バイデン政権が計画している手続きに数カ月もかかるという基金を介した支援など待っていられない。バイデンは直ちに無条件で資金の凍結を解除し、アフガニスタンの人々に金を返さなければならない。国連のアントニオ・グテレス事務総長も、アフガニスタンに対する制裁を停止するよう要求している。

 マスメディアは合衆国による資金凍結、あるいは “国際社会” による経済制裁アフガニスタン市民に与える影響については無頓着で、女性の権利など、タリバン政権によるアフガニスタン市民に対する人権侵害ばかりに注目している。あるいは、経済制裁によるアフガニスタン人の困窮や死は、タリバンに人権尊重を促すために必要な対価だとでも考えているのだろうか。毎日新聞22/2/15)の松井聡は、「ジレンマ」という言葉を使って、「制裁と支援を両立させる難しさ」を語っている。
 しかし今問題になっているのは、タリバンではなくて、経済制裁だ。ノルウェー難民委員会のヤン・エグランド事務局長(Democracy Now22/1/14)は次のように言う。

「今私たちが目にしているのは、私たちを阻んでいるのはタリバンではないということです。制裁なのです」