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── Media Watchdog Group

三権分立や国際法を都合よく解釈して日本政府を擁護するおろかさ

 韓国大法院(最高裁判所)が新日鉄住金(現日本製鉄)に大日本帝国時代の強制労働者への賠償を命じた訴訟で、同社資産を差し押さえる韓国国内の司法手続きが完了した。韓国の裁判所は今後同社資産の売却に向けた手続きに入ることになる。日本のマスメディアは強制労働の被害者の人権にはほとんど関心を示さず、ひたすら日本政府や日本企業を擁護しているが、毎日新聞(20/8/5)社説も独善的な論理で韓国政府に問題の責任を押し付けている。

 毎日新聞は、日韓請求権協定(1965年)で財産・請求権の問題は解決済みだというこれまでの主張を繰り返し、

三権分立は国内での統治の仕組みである。そのまま国際法に当てはめるには無理がある」

と述べて、三権分立を理由に請求権協定の解釈を「一方的に変更」した韓国大法院に介入しない韓国のムン・ジェイン大統領を批判する。条約は「行政府が交渉をまとめ」て「立法府の承認で発効する」もので、「そこに司法の介在する余地はない」そうだ。

 さらに毎日新聞は、

「条約上の義務を履行しないことを正当化する根拠として国内法を持ち出すことはできない。それが、条約に関する国際法の原則である」

と述べて、問題の「解決の道」は韓国政府が「国内で対応策を講じることでしか見えてこない」と主張している。

 まず三権分立についていうと、外交問題だから司法が介在できないというのはおかしい。説明する必要もないことだと思うが、三権分立は権力の暴走を防ぐことを目的にしている。三権分立が確立していれば、外交問題だからといって、例外扱いにはならないはずだ。
 確かに日本の司法は「統治行為論」や「第三者行為論」などの詭弁を用いて、米軍駐留についての司法判断を避けたり、米軍機の騒音訴訟で飛行差し止め請求を却下するなど、米軍にかかわる問題には「介在」しようとしないけれども、それは司法が独立しておらず、日本が未だに第二次世界大戦後の米軍による占領政策の延長線上にあることの証だろう。日米安保条約も米軍基地も憲法違反だ。本来ならば、司法が違憲判断を出して政府が日米安保条約を破棄し、米軍を日本から退去させるべきだろう。条約が国内法に優先するというのはあくまで「原則」であって、「違反が明白でありかつ基本的な重要性を有する国内法の規則に関わるものである場合」はその限りではない(条約法に関するウィーン条約)。
 また日韓請求協定の場合は、条約と国内法の優先順位の問題以前に、国家間の条約で個人の請求権を消滅させることはできないというのが国際社会の共通認識となっていることから、国家間の合意である同協定で、財産・請求権の問題は解決済みだということはできない。国際労働機関(ILO)の専門家委員会が1998年に戦時中の日本の強制労働の問題は強制労働に関する条約(1930年)に違反していると結論付け、日本政府に対して強制労働者の請求に応えるよう求める趣旨の勧告を繰り返し行っているように、強制労働の犠牲者を救済する責任は加害者である日本政府と日本企業にある。

 毎日新聞に報道機関としての自覚があるなら、条約というものは強者(大国や国家権力、大企業など)に都合の良いように作られることもあるということを認識しておくべきだろう。そのような条約を根拠に市民の声を封じようとする強者の論理を何の疑念もなく受け入れてしまっていたのでは、不平等や不正は永久に解消されない。ましてや日韓請求権協定は、韓国の軍事独裁政権時代にパク・チョンヒ大統領が反対する市民を弾圧して調印したものだ。
 植民地支配や奴隷制度など歴史的な不正や犯罪を改めて問いただす動きが世界の潮流になっている今この時に、三権分立国際法を都合よく解釈し、日韓請求権協定によって個人の請求権は消滅していないという決定的な事実を無視して、強者の論理に乗っかり日本政府を擁護する毎日新聞は、報道機関としての責務を放棄していると言わざるを得ない。