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── Media Watchdog Group

マスメディアは日本国憲法に基づく安全保障戦略を示せ

 日本政府が陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備断念を決定して以来、マスメディアでも日本の安全保障戦略が論じられ、とりわけ敵基地攻撃能力の保有の是非が問題になっているが、その保有に批判的な論説でさえ、敵基地攻撃自体は合憲だという政府見解が前提になっている。

 例えば毎日新聞(20/7/8社説)は、敵基地攻撃能力の導入は「議論が飛躍しすぎている」と批判し、「敵基地攻撃」が「国際法上認められていない先制攻撃」につながる可能性や、新たな装備を導入するための費用、正確に敵基地を攻撃するための技術面での課題などを問題視した上で、「敵基地攻撃能力を持てば、周辺国の警戒感が高まり、安全保障環境を悪化させる可能性もある」と指摘して、「日本の防衛政策」の「基本」である「専守防衛」を逸脱することがないよう冷静な議論を要求。朝日新聞(20/7/21社説)も同様に、先制攻撃となる可能性や技術面での問題を指摘するとともに、敵基地攻撃能力の保有は「専守防衛の原則から逸脱する恐れがあるとともに、地域の不安定化と軍拡競争にもつながりかねない」と述べて「地に足のついた安全保障論議」を求めているが、いずれも敵基地攻撃は「他に手段がない」場合であれば「自衛の範囲」に含まれ憲法に違反しないという政府の詭弁を受け入れている。

 しかし日本国憲法第9条は、「武力による威嚇又は武力の行使」と「戦力」の「保持」を明確に禁じている。“護衛艦”「いずも」の空母化やステルス戦闘機F35 など、現在導入が進められているものも含めて、敵基地攻撃及びその能力の保有は明白な憲法違反だ。戦後、憲法第9条が特徴づける平和憲法によって国際社会の信頼を築いてきた日本は、憲法第9条を基調とした安全保障戦略こそ追求すべきではないのか。
 例えば、「ピースデポ」の梅林宏道氏(人民20/6/30)は、「非核兵器地帯」をモデルに、日本の「専守防衛」の理念を東アジアに拡大することを提唱する。非核兵器地帯とは、条約によって地帯内での核兵器の開発・製造・保有などを禁止するとともに、核保有国による地帯内への核兵器による攻撃や威嚇を禁止するもので、中南米や南太平洋など既に5つの地域で安全保障の枠組みとして実際に機能している。また日本と同じ東アジアに位置するモンゴルは、一国ながら非核兵器地帯であることを宣言し、国内法で非核化を義務付けることで国際社会の信頼を得て「非核兵器地位」として認められ、核保有・軍事大国である中国とロシアに挟まれた地理的条件にありながら、非同盟国として、大国の軍事力に頼ることなく最小限の軍事費(日本の軍事費の1%未満)で安全保障体制を確立している。梅林氏の提案は、非核兵器地帯の試みを応用して、「専守防衛を宣言し、代わりに他国に対しては先制攻撃を禁止するという国際的合意を作り出して自国の安全保障を確保するという手法」だ。
 「専守防衛地帯」として国際社会から認めてもらうためには、梅林氏が指摘するように「米国の『核の傘』に入ることは止めるべきだし、攻撃型空母や艦載機となりうる兵器を保持しないという実態が伴わなければ」ならないが、その場合、軍縮によって削減された軍事費を社会保障などに回せるという利点もある。
 「核兵器廃絶国際キャンペーンICAN)」の川崎哲国際運営委員(沖縄20/7/27)は、2020年度の軍事費のうち「護衛艦『いずも』を『空母化』する改修費と同艦に搭載するF35B戦闘機6機の取得費の計824億円は、PCR検査センター130カ所以上を設置する額に相当」し、今年度の新規武器購入費1.1兆円で「集中治療室(ICU)のベッド1万5千床と人工呼吸器2万台を整備した上、医師1万人と看護師7万人の給与を賄える」と指摘する。平和主義に基づく安全保障戦略は、現在直面している新型ウィルスと闘う上でも有益だ。
 軍事力に頼らない安全保障戦略は存在し、その実現可能だ。佐々江賢一郎元駐米大使(朝日20/7/26)などのように、中国や朝鮮の軍拡を理由に敵基地攻撃能力導入を正当化することはできない。中国や朝鮮の軍拡は合衆国による軍事的脅威への対応であり、日本に存在する米軍基地や合衆国との「同盟」の強化が彼らを刺激し、東アジアの緊張を高めているという実態に気づかなければならない。

 敵基地攻撃能力保有への懸念を示したり、政府や与党に対して冷静な議論を求めるだけでは不十分だ。マスメディアは平和憲法を活かした安全保障戦略を提案すべきだ。