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── Media Watchdog Group

「敵基地攻撃能力」の保有は憲法違反ではないのか

 技術的・経済的な理由を挙げて、安倍政権は安全保障の観点からも問題があった陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備をようやく断念したが、今度はその代替案として「敵基地攻撃能力」の保有を狙っているようだ。明確な憲法違反だが、マスメディアはそのことをほとんど正そうとしていない。

 例えばNHKは、「敵基地攻撃能力」の保有憲法違反ではないという政府の主張に全く疑問を呈していない。

NHK政治部防衛省担当・地曳創陽:「敵基地攻撃能力については、政府はこれまでの答弁などで、他に手段がないと認められる場合に限って、可能だとしています。このため、専守防衛の考えのもと、憲法が認める範囲内で、議論が進められるものと見られます」ニュース7、20/6/24)

キャスター・有馬嘉男:「(敵基地攻撃能力の導入は)専守防衛という日本の基本原則が転換されるということにはならないんですか」
NHK
政治部防衛省クラブキャップ・稲田清:「政府はそうはならないという考えなんです。これまでも専守防衛の基本原則の中でも、この敵基地攻撃能力の保有は可能だとしていて、今回の議論もあくまで現行憲法の範囲内で行うとしています」ニュースウオッチ9、20/6/24)

 護憲の立場から「敵基地攻撃能力」の保有に否定的な見解としては、公明党には「慎重な意見」があると伝えるのがせいぜいで、憲法が政府を縛るものであるというのに、NHKは政府が憲法違反でないと判断すればそれで問題はないと考えているようだ。
 朝日新聞(20/6/20)も同様に、

「1956年に鳩山一郎内閣は、日本に攻撃が行われた場合、『座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とは考えられない』とし、『他に手段がない』場合に限り、ミサイル基地を攻撃するのは『法理的には自衛の範囲』と説明。これが政府見解として歴代内閣に引き継がれてきた」

などと説明している。
 毎日新聞(20/6/20)は、

「『敵基地攻撃能力』の保有を検討する意向を表明したが、憲法9条に基づく『専守防衛』を揺るがしかねず、今後の大きな焦点となる」
「『専守防衛を超える』との慎重論は根強く、憲法9条が定めた戦力不保持との整合性をどう保つか、難しい調整を迫られる」

などと伝えているが、明確に憲法違反だと指摘しているわけではない。
 しかし日本国憲法第9条は、武力行使と戦力の保持を、読み間違えようがないほど明確に禁じている。

日本国憲法第9条
(1)日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
(2)前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 政権に復帰し、「安倍一強」と言われて7年も経つというのに未だに憲法改定には手を付けていないところを見ると、安倍晋三には憲法を変える気がないのかもしれないが、どうしても「敵基地攻撃能力」が必要なら、憲法を改定してからやるべきだろう。

 マスメディアが批判を怠ることで、今まさに「敵基地攻撃能力」の議論が行われようとしている。
 自衛隊の存在も憲法違反だが、「自衛隊は戦力ではなく、実力だ」などという詭弁を受け入れた瞬間に憲法第9条はほとんど意味をなさなくなり、今では自衛隊が合衆国の侵略戦争の一翼を担うことが世界中で可能となり、日本は年間軍事費5兆円を超える軍事大国になった。
 同じように、「敵基地攻撃能力」の是非や定義の議論を始めた瞬間に、憲法の縛りも「専守防衛」という概念も意味をなさなくなるだろう。そして最後の縛りである世論も、マスメディアのミスリードによって「敵基地攻撃能力」の保有を受け入れるようになるかもしれない。あるいは、「敵基地攻撃能力」が憲法違反だと思ったとしても、誰も声を上げなければ、そのように考える自分の方が間違っていると思うようになるかもしれない。自衛隊の場合、朝日新聞(20/5/3)の世論調査によれば、69%の人が憲法に「違反していない」と回答している(「違反している」は22%)。

 マスメディアの仕事は政権のPRか、権力の監視か。権力を監視するためだというなら、「敵基地攻撃能力」の保有憲法違反であると、明確に伝えるべきだ。