Bark at Illusions Blog

── Media Watchdog Group

「北朝鮮の非核化」を求めるなら、朝鮮半島の平和についても語れ

 朝鮮半島の平和と非核化を巡る米朝間の交渉で、マスメディアが問題にするのは常に「北朝鮮の非核化」だ。2月にベトナムで行われた米朝首脳会談を伝えるニュースでも、ほとんどのマスメディアは「北朝鮮の核」だけに注目し、在韓米軍の核や朝鮮半島の平和の問題については全くといっていいほど関心を示していなかった。しかし朝鮮半島の核を巡るこれまでの合衆国と朝鮮の合意は全て「朝鮮半島の核」を対象にしており、それは朝鮮半島の平和とセットだ。「北朝鮮の非核化」だけを問題にしている時点で、そのメディアは偏向しているということになる。

 これまでの朝鮮半島の核を巡る合意を簡単に確認しておくと、1994年の米朝枠組み合意で、米朝は朝鮮の核開発の凍結だけでなく、両国が「非核化された朝鮮半島の平和と安全のために共に取り組む」ことや、両国が「政治的・経済的関係の完全な正常化に向けて行動する」ことでも合意し、合衆国は朝鮮に対して「核兵器で威嚇したり核兵器を使用したりしない」ことを約束している。2005年の6者協議(朝鮮・合衆国・日本・韓国・中国・ロシア)の共同声明では、朝鮮は「すべての核兵器及び既存の核計画を放棄すること」を約束し、合衆国は「朝鮮半島核兵器を配備しないこと、及び、朝鮮民主主義人民共和国に対して核兵器又は通常兵器による攻撃又は侵略を行う意図を有しないことを確認」した。さらに米朝は「相互の主権を尊重すること、平和的に共存すること、及び二国間関係に関するそれぞれの政策に従って国交を正常化するための措置をとること」を約束している。そして昨年のシンガポールでの米朝首脳会談後の共同声明では、米朝は「新しい米朝関係の構築」と「朝鮮半島の永続的かつ安定的な平和体制の構築」、「朝鮮半島の完全な非核化」などで合意している。これまでの全ての米朝間の核を巡る合意は「北朝鮮の核」だけでなく、合衆国の核も対象にしており、両国の関係正常化や朝鮮半島の平和に関する約束も含めた包括的な合意となっている。

 今回のベトナムでの首脳会談前後の報道を見ると、マスメディアはシンガポールでの共同声明を確認する際に「新しい米朝関係」や「朝鮮半島の平和体制」の構築に言及した時でさえ、実際に問題にしているのは非核化だけであり、その非核化も、「朝鮮半島の非核化」と正しく述べている場合でさえ、実際に問題にしているのは「北朝鮮の非核化」だけだった。
 そして朝鮮側の要求については「北朝鮮の非核化」に対する合衆国の「見返り」と表現され、ほとんどのマスメディアは会談前、内政で苦境に立つ合衆国のドナルド・トランプ大統領が外交で成果を上げるために「安易な妥協」をして、制裁緩和や朝鮮戦争終戦宣言、あるいは在韓米軍の縮小・撤退など──いずれも合意済みの「新しい米朝関係」や「朝鮮半島の平和体制」の構築のために合衆国側がとらねばならない措置だ──に応じてしまうのではないかと懸念していた。また会談後にトランプが米韓合同軍事演習を廃止したことは、「新しい米朝関係」や「朝鮮半島の平和体制」の構築に向けた動きとして歓迎されるべきものだが、朝日新聞(19/3/5)や日本経済新聞(19/3/5)などは、むしろネガティブなこととして伝えている。

 しかし現実を見ろ。朝鮮と韓国は昨年9月の首脳会談で事実上の終戦宣言を行い、南北の境界線付近では武装解除も始まっている。朝鮮半島に住む人たちは、もう戦争を望んでいない。平和を求めているのだ。これまで毎年春に行われていた米韓合同軍事演習は侵略的なものであり、朝鮮側の軍事的な対抗措置も誘発して緊張を高め、朝鮮半島の平和を遠ざけてきた。朝鮮半島に住む人々が平和を望んでいるのだから、それに逆行する米韓合同軍事演習を廃止することは、当然のことではないか。朝鮮戦争終結すると在韓米軍撤退の問題が出てくるだって? 合衆国の都合で朝鮮と韓国がいつまでも戦争状態に置かれなければならないなどという身勝手は許されない。戦争が終わったなら、米軍は直ちに国に帰るべきだ(朝鮮戦争の休戦協定に従えば、米軍は休戦協定発効から3か月以内に朝鮮半島から撤退していなければならなかった)。米軍の存在が世界の平和に寄与すると考えている人がいるなら、それは騙されているのだ。実際、米軍の存在は世界各地の緊張を高め、紛争やテロを誘発して多くの国を混乱と恐怖に陥れてきた。「世界の警察」だとか米軍の抑止効果などというのは各国に米軍の駐留を認めさせるためのプロパガンダだ。また制裁については国連の人道支援にも甚大な影響が出るなど、朝鮮に住む一般の人々を苦しめている。朝鮮がシンガポールでの合意に従ってこれまでに取ってきた措置や今後の交渉の進展に合わせて、制裁を緩和することも必要ではないか。

 朝鮮が核を放棄する前に終戦宣言をしたり制裁を緩和したりして、これまで国際社会との合意を反故にしてきた朝鮮が本当に非核化の約束を守るのかと疑う人も多いだろう。しかしそれは事実誤認だ。Bark at Illusions(18/1/31、18/3/12、他)が繰り返し指摘してきたように、合意を先に破ってきたのはいつも合衆国だった。また合衆国の情報機関は「北朝鮮が将来的に核放棄をする可能性は低い」と分析しているが、それは合衆国側に朝鮮半島における非核化や朝鮮戦争終戦宣言に応じるつもりがないから、そのような分析になるのではないか。朝鮮は合衆国による侵略を抑止するために核兵器を開発した。合衆国側が侵略の意図を止めないなら、確かに朝鮮が核を放棄する可能性は低いだろう。

 朝鮮政府が核を放棄できるように、朝鮮半島の恒久的な平和が保証されなければならない。非核化と平和はセットだ。朝鮮戦争終結を目指す「Women Cross DMZ(非武装地帯を越える女性たち)」の理事長・クリスティーン・アーン氏が述べているように、

「私たちは平和を実現するまで、非核化に到達することはできない。そして、朝鮮戦争終戦宣言は最初の一歩ではあるが、十分ではない。それは法的拘束力のある合意ではない。私たちは平和協定を締結するために圧力をかけなければならない」Democracy Now 19/2/28)

 トランプが朝鮮半島の平和に向けて歩みだそうとすれば「譲歩」と受け取られるような世論では話にならない。「北朝鮮の非核化」を求めるなら、マスメディアは朝鮮半島の平和についても語れ。