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── Media Watchdog Group

日本政府の石炭火力発電政策に対する国際的な批判を無視するNHKニュース7とニュースウォッチ9

 石炭火力発電を推進する日本政府に対して国際的な批判の声が上がっている。しかし公共放送を自負するNHKの看板ニュース番組、ニュース7ニュースウォッチ9は、日本政府に対する批判の声を一切伝えていない。

 日本政府は国内のエネルギー政策では石炭火力発電を「ベースロード電源」と位置づけて40基以上の新設を計画するとともに、国外に向けても「質の高いインフラ輸出」の一環としてアジアやアフリカ諸国などへの石炭火力発電の輸出に力を入れている。

 日本政府は、最新型の火力発電は発電効率が高く環境負荷が低いと主張しているけれども、石炭火力は最新の高効率のものでも天然ガスのおよそ2倍の温室効果ガスを排出する。「地球の気温上昇を産業革命前と比べ2度未満に抑えるパリ協定の目標を達成するには、経済協力開発機構OECD)加盟国は2030年までに石炭を全廃する必要があるとの試算もある」(日経17/11/17夕刊)。先月ドイツで開催された国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP23)では、既に国内の火力発電所を全て廃止すると宣言している英国・カナダ両政府が、石炭火力発電の廃止を目指す25の国や自治体からなる連合を設立したと発表するなど、脱石炭が世界の潮流だ。
 また、石炭火力発電の輸出については環境破壊や現地住民の生計手段への甚大な被害のほか、事業に反対する住民への人権侵害なども報告されている[i]

 日本政府の石炭火力発電政策に対しては、国連環境計画が「新規建設をやめ、既存の施設も早期に閉鎖することが極めて重要だ」と日本を名指しして批判している(毎日17/11/1)。COP23でも、日本政府や日本の民間企業が進める石炭火力政策に対して──特に日本政府が出資する国際協力銀行JBIC)が、インドネシアのチレボン石炭火力発電事業拡張計画への融資をCOP23 開催中に実行したこと対して──抗議行動が行われた。チレボン石炭火力発電事業拡張計画については、現地住民とNGOが環境許認可の有効性を問う行政訴訟を起こしている[ii]

 ニュース7ニュースウォッチ9は、こうした事実を全く報じていない。COP23について伝えたニュース7(17/11/6、17/11/18)とニュースウォッチ9(17/11/17)では、主にパリ協定を離脱した合衆国に焦点が当てられ、合衆国政府に対する抗議行動があったことは伝えているが(ニュースウォッチ9、同)、日本政府に対する抗議の声は伝えていない。

 上記の通りパリ協定では人類への壊滅的な影響を防ぐために産業革命前に比べて気温上昇を2度未満に抑えることが目標とされ、太平洋の島しょ国やアフリカ諸国の人々の暮らしを守るためには気温上昇を1.5度未満に抑えることが求められているが、国連環境計画の報告によれば、パリ協定で世界各国が掲げる温室効果ガスの削減目標を達成しても今世紀末の気温上昇は3度を超える可能性が高い。そのため、各国は──とりわけ歴史的に温室効果ガスをたくさん排出してきた日本などの先進国は──さらなる温室効果ガスの削減を実施しなければならない。
 政府の政策が間違っているなら、日本のような民主的な国に住む国民は政府に圧力をかけてその政策を変えさせなければならない。特に地球温暖化は、この地球上に住む私たち一人一人の将来に直接かかわる問題だからなおさらそうだ。そのために、私たちはまず自分たちの政府が何を行い、それが国際的にどのように評価されているかを知る必要がある。そして民主社会における公共放送の役割とは、そうした情報を国民に伝えることであって、政府にとって都合の悪い事実を国民の目から遠ざけておくことではない。NHKは公共放送としての役割を怠っている。

 

[i] 例えば、インドネシア・バタン石炭火力発電事業に関するFoE Japanの報告を参照。国軍・地元警察などによる住民への脅迫や暴力・土地売却の強要などが報告されている。

[ii] チレボン石炭火力発電事業についても、FoE Japanの報告が詳しい。同事業の拡張計画は、計画に反対する地元住民が環境許認可の取り消しを求めて行政訴訟を開始。今年4月の地方行政裁判所の判決で許認可の取り消しが宣言された。JBICはCOP23開催中の11月14日、新たに発行された環境許認可を根拠に融資を実行したが、新たに発行された環境許認可は、事業者が4月の判決で既に無効となっている許認可の改訂を申請したために発効されたものであり、有効性には疑問が残る。地元住民とNGOは今月4日、新しく発行された環境許認可の有効性を問う行政訴訟を再び起こした。