Bark at Illusions Blog

── Media Watchdog Group

庶民に好景気の実感がないのはアベノミクスが成功しているから

 マスメディアのアベノミクスについての評価は、大企業の業績は回復しているけれども一般庶民には景気回復の実感がない、ということでほぼ一致している。

アベノミクス5年間の実績というのを見ますと……景気の指標を示す様々な数字は上がっているんですが、ただ依然として景気回復の実感がないという声もあります」NHKニュース7、17/10/10)
アベノミクスの評価……数々のデータを出して実績をアピールする与党に対して、野党の多くは実感がないと批判していますよね。数字では好調なのに実感がない」、「アベノミクスは成功なのか失敗なのか」(報道ステーション、17/10/18)

 しかし庶民に景気回復の実感がないのは、アベノミクスが成功しているからこそではないだろうか。

 「世界で一番企業が活躍しやすい国を目指す」

というのが安倍政権のひとつのスローガンだが、「企業が活躍しやすい国」とはどういう国だろう。具体的には、税負担が軽い・労働者の賃金が低い・規制が緩い、といったところだろうか。
 一方で、企業が活躍しやすいそのような社会は、当然のことながら、税負担増・公共サービスの低下・低賃金、労働や環境基準の低下など、様々な面で市民社会に負担がかかる。

 安倍政権は発足以来、法人実効税率を37%から29.97%まで引き下げる一方で、消費税率を5%から8%に引き上げ、今回の選挙では、さらに10%まで引き上げると宣言している。
 そして安倍政権は、消費税率を8%へ引き上げることで、一般庶民に毎年およそ8兆円もの増税を行っておきながら、年金の削減や医療・介護費用の負担増など6兆5000億円もの負担を国民に押し付けている。安倍晋三総理大臣は、高齢化や医療の高度化による社会保障費の自然増について、「毎年1兆円伸びていくと言われてたものが、5000億円に3年連続で抑えています」(ニュースウォッチ9、17/9/25)と自慢しているけれども、高齢化や医療の高度化による自然増を毎年5000億円も削減するということは、それだけ社会保障の質を落とすということに他ならない。
 また、安倍政権は雇用が改善したことをアベノミクスの成果のひとつに挙げているが、「増えたのは非正規の労働者が中心で……労働者の実質賃金は年間10万円も減少」している(赤旗17/10/7)。
 高騰を続ける株価は、国内株式市場の1割近くを占めるおよそ60兆円を公的年金基金と日銀が直接・間接に保有しているが、「中央銀行が株を買うのは異例の対応で、欧米に例はない。物価への波及効果や経路が見えづらいほか、恩恵も富裕層や上場企業に偏りやすい」(日経17/10/19)。安倍晋三は「株式市場で運用していますから、この4年半で46兆円も、皆さん、年金資産は増えたんですよ。皆さんの年金財政はしっかりとしたものになってきました」と街頭演説で誇らしげに語っているが、株価は上がったり下がったりするものだから、暴落すれば私たち国民の年金資産は大きく目減りすることになる。年金という老後の生活のために国民が預けているお金を、リスクの高い株式で運用するということ自体、問題がある。安倍政権は2014年10月、年金の国内株による運用比率をそれまでの12%から25%に引き上げている。
 他にも安倍政権は、「岩盤規制をドリルで崩す」と公言しているが、多くの規制は国民の健康や安全を守るためのものだ。安倍政権は、あらゆる規制を撤廃する(但し著作物や医薬品の特許など、大企業が利益を上げるために必要な規制は強化される)ことを目指す環太平洋パートナーシップ協定(TPP)を国会で承認させ、TPP関連法を成立させた。合衆国の離脱で協議は停滞しているけれども、協定が発効すれば、食の安全や医療保険など私たちの国民生活に悪影響を与えると考えられている。
 さらに安倍政権は、労働者を政府の定める過労死ラインまで働かせることを法的に可能にする残業時間の‟上限規制”や、残業代の支払い対象外とする「高度プロフェッショナル制度」を導入しようとしている。

 安倍政権の政策は大企業には恩恵があるが、そこで暮らす国民は疲弊する一方だ。アベノミクスを擁護する人々は、金持ちや大企業が潤えば庶民にも富がいきわたるという「トリクルダウン」説を主張するが、大企業の内部留保は安倍政権発足以来およそ100兆円増え、既に400兆円に積みあがっている。経団連は、自分たちは法人実効税率を大幅に下げてもらっておきながら、消費税増税や財政健全化──それは社会保障費のさらなる削減を意味する──を政府に要求している。大企業や富裕層がいくら潤おうとも、一般庶民まで富がいきわたりそうにない。一般庶民の景気を良くしたいなら、安倍政権の目指す「世界で一番企業が活躍しやすい国」ではなく、「世界で一番庶民が暮らしやすい国」を目指すべきだ。
 マスメディアもそろそろ、トリクルダウンは幻想だったと結論付けるべきではないだろうか。