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── Media Watchdog Group

衆議院解散総選挙:行動する市民に関心のないNHK

 NHKニュース7(17/9/28)とニュースウォッチ9(17/9/28)は、衆議院選挙は自民党希望の党の構図と断言し、野党再編の動きについては民進党希望の党に吸収されることを巡る政治家の動きや反応ばかりに注目している。これまで安保法制廃止を目指して野党と共に運動を続けてきた市民の声は完全に無視されている。

 安倍政権が憲法違反の安保法制を強行採決して以降、これに反対する市民は市民連合などを中心に民進・共産・自由・社民の4野党とともに、安保法制の廃止と立憲主義の回復などを目指しておよそ2年にわたり運動を続けてきた。安保法制に反対する市民にとって、党を事実上解党して希望の党から出馬するという今回の民進党の決断は、これまでの運動を弱体化させかねない重大な背信行為だ。
 希望の党が、これまでの市民と4野党による共闘と相いれないことは明らかだ。代表の小池百合子希望の党への入党条件について、安全保障と憲法観という根幹で一致していることが重要だと語り、「極めてリアルな安全保障政策についてこられるかどうか」だとも語っている[i]
 従って民進党希望の党に吸収されるということ自体も確かに大きなニュースだが、その結果、これまでの安保法制廃止に向けた運動はどうなるのかということも市民にとっては大きなニュースだ。
 しかしニュース7ニュースウォッチ9は、民進党の決断は4党の党首合意を破る背信行為だと語る共産党志位和夫委員長の短いインタビュー以外、こうした側面にほとんど触れていない。運動にかかわってきた市民の声については、全く伝えていない。
 それどころか、

「選挙戦は安倍政権と小池知事が率いる新党の対決を軸に展開される見通しです」(アナウンサー・鈴木奈穂子ニュース7、17/9/28)
「党としての対決でいうと、自公対希望の党という構図になるわけですけれども……」(アナウンサー・桑子真帆ニュースウォッチ9、17/9/28)
「今回の選挙戦、自民党の]安倍さんと希望の党の]小池さんの何言ってるのかをよく吟味してですね、ぜひとも投票に行ってもらいたいなと思います」NHK政治部長山口太一ニュースウォッチ9、17/9/28)

などと、選挙が自民・公明と希望の党の戦いであることを強調して、憲法違反の安保法制をどうするかという重大な問題を争点から除外している。

 NHK政治部長山口太一は、選挙の投票率が50%を割るようなことがあれば「民主主義の危機」だと語っているけれども(ニュースウォッチ9、17/9/28)、選挙や投票率の高さで民主主義の度合いを測ることはできない。独裁国家でも選挙は行われるし、そうした国では概ね投票率も高い傾向にある。
 時々行われる選挙で誰かに支持を表明することだけが民主主義ではない。安保法制に反対してデモや集会などに参加してきた市民は民主主義を実践してきた。今回の民進党の決断は、そうした市民に対する裏切りであり、その決断自体も上意下達で、決して民主的とは言えない──これまでの自分たちの政策や理念を捨てて他党に吸収されるなどという不埒だが重大な決断に「満場一致」などということが民主的な組織であり得るだろうか。
 民主的な社会では多様な意見が尊重されなければならない。安保法制廃止を目指して4野党と共に運動を続けてきた市民の声を一切伝えないNHKもまた、民主主義社会にふさわしいメディアとは言えない。

 

[i] ただし、小池の言う「リアルな安全保障政策」とは対米追従、合衆国の侵略戦争のお手伝いとその後始末に自衛隊を参加させる──合衆国がイラクアフガニスタンを侵略した後にNATO北大西洋条約機構)がやっているのと同じように──ということだ。「安全保障」を日本の領土や国民の安全・平和を守ることと捉えるならば、それとは正反対のものを意味する。