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── Media Watchdog Group

NHKが伝えないグアムに住む人々の思い

 周辺海域にミサイルを発射すると北朝鮮から威嚇されているグアム島。合衆国の独立系メディア、デモクラシー・ナウ(17/8/11)は、NHK(おそらく日本の他のマスメディアや合衆国本土でも)ではほとんど伝えられることのないグアムに住む人々の声を伝えている。

  北朝鮮によるミサイル発射の威嚇以降、NHKニュース7ニュースウォッチ9でも、観光業に対する影響を心配するエディ・カルボ知事や、平和を祈ったり、不測の事態に備えるグアムの人々の声をいくらか伝えている。例えば、

カルボ知事グアム知事:「あなた[ドナルド・トランプ]が指揮官なのでとても安心です」(ニュース7、17/8/12)、「アメリカと北朝鮮が沈静化に向けた道を模索してほしい」(ニュース7、17/8/14)、「大統領のおかげで安全と感じている」「北朝鮮が戦争を起こすかのように騒ぎ立て続けると誰も休暇を 過ごしに来なくなる」(ニュースウォッチ9、17/8/14)
グアム住民:「祈って祈って祈り続ける。それが一番」(ニュース7、17/8/14)、「ちょっと怖いけど生活を最大限楽しまないと」(ニュース7、17/8/16)、「政府は怖がるなというが備えはしなければならない」(ニュースウォッチ9、17/8/21)
グアム政府観光局局長「グアムで何かが起こる確率は0.000001%だけだ。しっかりと守られている」(ニュースウォッチ9、17/8/21)
等々。

 しかし、これはいわば一方の側のグアム住民の見解に過ぎない。デモクラシー・ナウ(17/8/11)にゲスト出演したグアム平和正義連合代表・脱植民地化に関するグアム委員会委員のリサリンダ・ナティビダドさんによれば、北朝鮮の威嚇に対して主にふたつの反応がグアムの人々の中にあり、グアムは安全だという政府の言葉を信じる人々がいる一方で、それと同じくらいの数の人々が、米朝の軍事的緊張の中でグアムが「担保」として利用されていることに増々怒りを募らせている。

ナティビダドさん:「the second half of our population, I think, is very angry about how our colonial status puts us at this level of grave, grave risk.(後者の人々は、グアムの植民地としての地位が私たちをこの大変な危険にさらしていることに大変怒っています)」

 グアムでは基地に対する抵抗運動がこの10年で急速に育ってきている。2006年に合衆国政府が8000人の海兵隊を沖縄、そして韓国からこの島に移動させることを日本と合意した結果、抵抗の大きなうねりをもたらしたとナティビダドさんは語っている。

 またグアム在住のビクトリア・ロラ・M・レオン・ゲレロさんは、ボストン・レビュー(17/8/11)に掲載された『グアムからアメリカへの公開状』[i]の中で、合衆国がグアムの「爆撃をめぐるすべての問題の原因」であること・第二次世界大戦では、合衆国政府はグアムの人を守ると約束しながら、いざ日本に侵略されるとグアムの人々を見捨てたこと・日本からグアムを取り返す際に爆弾で島を荒廃させたこと・日本からのグアム奪還後、広大な米軍基地建設のために住民が追放されたこと・米軍の爆弾などによって海が汚染されていること・「とんでもない時間」に民家の上空で轟音を立てながら爆撃機を飛ばしていることなどを指摘して、「どうか爆撃について語るのはやめて、なぜグアムが2017年の今もあなたがたの植民地であるかを自問して下さい」と述べている。

 ビクトリアさんの指摘は、日本人の我々にとって沖縄を彷彿させる。沖縄も第二次世界大戦中、日本政府に見捨てられ捨石にされ、合衆国の爆撃で島を荒廃させられた。戦後は米軍基地建設のために「銃剣とブルドーザー」で土地を奪われ、今も広範な土地が米軍に占領されている。そして「とんでもない時間」に爆撃機を飛ばして沖縄に住む人々の生活を壊している。

 沖縄と同じように米軍基地の問題を抱えるグアムのこうした声は、日本政府にとって都合が悪いだろう。基地があるから標的になっているという指摘や、沖縄の米軍の移設先であるグアム住民が基地に抵抗しているという事実も日本政府にとって好ましいことではない。それゆえ、おそらく市民の大きな圧力が無ければ、NHKがニュースでこうした声を伝えることはないだろう[ii]

 デモクラシー・ナウに出演したナティビダドさんは、こうも語っている。

「The claim about U.S. bases overseas, for years, and the conventional wisdom in mainstream foreign policy discourse is that these are absolutely necessary to the defense and security of the United States and the world. Rarely has anyone provided evidence to show that these bases are keeping the peace and deterring allies. Quite to the contrary, I think this scary moment is an example of how bases can increase military tensions.(合衆国国外にある米軍基地についての長年の主張や主流の外交政策の言説は、合衆国と世界の防衛と安全保障にそれらは絶対的に必要だというものです。しかし、めったにその証拠が示されることはありません。全く反対に、今回の恐ろしい状況は、どれだけ基地が軍事的緊張を高めるかを示す例だと私は考えます)」

 

[i] ATTAC関西グループグループのブログ(17/8/14)で公開状全文の邦訳を読むことができる。)

[ii] 日本のマスメディアでは、例えば、東京新聞(17/8/23)が「グアムは(米朝間の)ゲームの駒に使われているように感じる。この現状は少しずつ変えるべきだ」というグアム大学のロバート・アンダーウッド学長の声を紹介している。また毎日新聞(17/8/23)は、グアムで平和を求めるデモが行われたことを伝えるとともに、「独立も含め、米国の軍事的重荷を背負うだけの現状を脱する方策を探るべきだ」というデモ主催グループメンバーの声や、「グアムは自分たちが選んでいない大統領に命運を握られている。今回の件は米国との関係を見つめ直すきっかけになった」というグアムのテレビ局スタッフの声を伝えている。ただし、東京新聞は、記事の大半がグアムの観光客が増加傾向にあるという点に割かれている(記事の見出しは『ミサイル危機 知名度アップ グアムにぎわい 観光客増』)。また毎日新聞は、基地そのものへの不満よりも、グアム住民には大統領選の投票権がないことや、グアムは連邦下院議員に議席を持つが議決権はないことなども挙げて、グアム住民の「米外交政策に影響力を行使できないことへの不満」に重きを置いている。