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── Media Watchdog Group

合衆国のシリア攻撃:国際法に関心がないNHK

 合衆国政府は、アサド政権がシリアで化学兵器を使用したとして、シリアを攻撃した。明白な国際法違反だが、NHKは、今回の合衆国政府による攻撃を国連憲章に照らし合わせて判断することを怠っている。

  国連憲章で、武力行使が認められるのは、国連安保理の承認がある場合か、自衛権の行使[i] による場合に限られている。
 「アサド政権が化学兵器を使用したことへの対抗措置」として行われた、今回の合衆国政府によるシリアへの武力行使は、いずれにも該当しないため、明白な国際法違反といえる。しかも、シリアで化学兵器が使用されたことについては、化学兵器禁止機関(OPCW)が調査中で、誰が使用したかも明らかになっていない。

 しかし、NHKニュース7(17/4/7)も、ニュースウォッチ9(17/4/7)も、合衆国のドナルド・トランプ大統領が「シリアのアサド政権が化学兵器を使用したと断定」、「その対抗措置として、アサド政権の軍事施設を巡航ミサイルで攻撃した」などと、ほとんど疑問視することなく伝えている。

 化学兵器を誰が使用したか断定できていないことや、合衆国政府の武力行使国際法違反だという点については、「ならず者国家」と称されるシリアやイラン、アサド政権を支援するロシア政府の主張という形でだけ紹介している。

 そして、NHKは、合衆国政府のシリア攻撃の狙いについて解説し、「化学兵器の使用は、決して許さないというメッセージを明確に示す」ことの他に、

「必要と判断したときには、軍事力の行使を辞さないという、トランプ政権の姿勢をアサド政権、さらには国際社会全体に示す狙いもあった」NHKワシントン支局、石山健吉、ニュース7

「国家やテロ組織が一線を越えたときには、断固とした対応を速やかに取ることを明確に示す狙いがありました」NHKワシントン支局、田中正良、ニュースウォッチ9

としているが、武力による威嚇も国連憲章で禁じられている。

 しかし、そのような国際法には全く言及せず、ニュースウォッチ9は、北朝鮮の核・ミサイル開発問題に関連して、「やるときはやる、そんな姿勢をトランプ大統領は、シリアへの攻撃で、中国にも示した」として、五百旗頭真の解説を紹介している。

「怒らせると怖いと。(中国は、トランプを)張り子の虎かもしれないという解釈をしてたかもしれない。だけどこれはちょっと違うなというので、中国に対するメッセージにもなるんじゃないですかね」、「アメリカの……軍事プランの中で、首領を除去するみたいな……作戦プランもないわけではない。習近平にとっては北朝鮮の体制の崩壊ということになる……その混乱というのは、国境を接している中国には大変重いし……避けたい。中国が北朝鮮に影響力を行使するということは、できるだけ応じなきゃいけない。けれども崩壊させるところまではやれないというので、どの辺の線を考えるか、注目点です」

 確かに、合衆国政府は、「首領を除去するみたいな」ことを、これまでに、計画するだけでなく実際に数多く行ってきた[ii]。しかし、それらも当然のことながら、国際法違反である。

 ニュースウォッチ9のキャスター、有馬嘉男は、番組のエンディングで、

「アメリカは単独行動も躊躇しない、そんなトランプ流を世界に見せつけるインパクトはありましたよね。となると、やっぱり気になるのは北朝鮮の問題。トランプ政権がどう出るのか、海をひつつ隔てるだけの私たちも見逃すことはできません」

と述べているが、本当にそう思うなら、なおさらのこと、国際法に照らして、合衆国政府の暴走を批判すべきではないだろうか。

 

[i] 自衛権:急迫不正な侵害があり、その侵害を排除する上で他に手段がない場合に、必要最小限度の実力行使を行うことが認められている。

[ii] アフガニスタンイラク、イラン、ギリシャグアテマラグレナダコンゴ民主共和国、チリ、ハイチ、ブラジル、ベトナムホンジュラスユーゴスラビアリビア等々。オーストラリアのジャーナリスト、ジョン・ピルジャーによれば、合衆国政府は、これまでに50カ国以上の政府を転覆してきた。そのほとんどが民主的に選ばれた政府であり、少なくとも30か国で武力行使が行われ、数多くの市民が合衆国政府によって殺された。